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[雑記]ラーメンと愛国・南紀旅行記前編

旅も終盤、長時間を電車で過ごす中、粋がって持ってきた近代小説に飽きてぼんやりしていると、同行者のウラジミルが、これでも読むか、と言って私に新書を手渡した。

『ラーメンと愛国』。

私は静かに本を返し、再びぼんやりすることにした。

3/7,8の二日間、私達は南紀を電車で旅していた。京都駅を出発し、紀伊半島西岸を南下、和歌山、串本を経由し那智勝浦で折り返すという、電車で15時間の旅程である。




[ホックニーのエッチング]


最初の経由地和歌山で、和歌山県立近代美術館に寄った。数多くの美術作品は勿論のこと、その静謐な空気と、洗練された建築を同時に楽しむことが出来るという点で、美術館は大変充実した場所である。そのことに先日ふと気付き、様々な美術館を回ってみたいと思った。その最初がこの和歌山県立近代美術館になる。その意味でこの場所は私にとって印象深く、ここを考える基準として、後に東京初め多くの美術館に足を運ぶことになる。美術館に関しては個別に稿を割きたいので、後日改めて書くことにする。

 和歌山県立近代美術館 

そもそもこの美術館を選んだのは、ホームページが洗練されていて見やすかったこと(美術館でありながらレイアウトが悪いのでは本末転倒だと思った)と、丁度行く時期に特集展示が組まれていた井田照一氏という方の作品が所謂「ポップアート」で、見ていて楽しそう、と思ったのがきっかけだった。しかしそこは実際に行ってみるもの、むしろその建築、そして偶然の企画展に大きな見所があった。建築については前述の通り、後日稿に落とすことにして、ここでは企画展に絞って書いてみたい。

当時の企画展は『ホックニーのグリム童話』というものであった。油彩、版画、写真、オペラの舞台デザインなど、現在も多岐にわたって活躍するデイヴィッド・ホックニー氏が学生時代、グリム童話をエッチング(金属板による版画)によって表現した作品が並んでいた。

美術に関する浅学を恐れずに書くと、それらの作品の魅力は大きく二点あった。一つは、緻密さ。そして二つ目は、具象絵画と抽象絵画との二面性である。

一つ目は、これは完全に好みの話になる。恐ろしく細く描かれた線の正確さと、その集合が極めて小さな領域に収まっている点に、集中力、執念、凝縮された充実感を感じた。自分も細かい作業は好きな方なので、単に勝手に親近感が湧いただけかもしれない。

二つ目について。

まず前提として、具象絵画と抽象絵画について簡単に定義をすると、前者は「何が描いてあるか一目でわかるもの」、後者は「何が描いてあるか一目ではわからないもの」である。前者は写実的で、例えばリンゴや、人物が描かれている。しかし後者は、一見何が描いてあるか分からない。あるいは、見る側の解釈が一致しない。単なる落書きに見えることもあるし、これはリンゴだ、という人もいれば、いやバナナだ、という人もいるかもしれない。いわゆる「よくわからない」絵画である。

そして具象絵画の性質は大きく、①技術、②含蓄、の二つあると考えている。①は、描く対象を正確に再現するための「巧妙さ」である。衣服の材質をどう再現するか、光の揺らぎをどう再現するか、人物の表情をどう再現するか。そのための画材、色彩の選択、筆の動かし方一切を含めた技法の優劣を指す。そして②は、作品のメッセージ性である。勿論、これが無い絵画は無いはずだが、殊に具象絵画におけるメッセージ性は、描く対象の物理的状況によって表現される。例えばリンゴの絵であれば、リンゴの「配置」によって、見る側に何かを語りかけるのである。

一方、抽象絵画においては、①技術というものがそもそも観念されていない。だだ②含蓄があるだけである。その含蓄でさえも、作者は見る側がそれを理解出来ることを期待しているかといえば、そうでは無いだろう。作品について考え抜いた者だけが辿り着く、確固たるメッセージ性があるのか。それとも、確固たるメッセージが、抽象的な形式でしか表現し得なかったのか。それは誰にも分からないが(個人的には、後者だろうと感じている)、ともかく、「何が描いてあるのか分からない」その不安感は、作品自体のみならず、その作者の内面を、人間の思考の可能性を、深く探って行こうとする絶対的なきっかけとなる。


(続く)



(Kid M)
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